クロスケは旅に出る。そのまえ①
クロスケは旅に出ようと思い立った。
じゃなかった。
わたしのあだ名が クロスケ。
何がクロスケの背中を押したのか。
それは今になってははっきりしない。
高校生の頃から、バクゼンと旅にあこがれていた。
誰でもそうだと思う。
たとえば
国語の教科書で読んだ、遠い異国の
肌の色も目の色もコトバも違う人がいる場所。
1人列車の旅、向かいの席に座った人。
ことばもかわさないうち その彼が食べようとしていた
サンドイッチを半分ちぎってわけてもらうはなし。
パサパサしたパンにチーズが挟んであるだけのパンが
すごくおいしかったと、
主人公の父親の 学生のころの思い出話。
作家の名前はとうに忘れている。
ただ、その活字の風景が焼き付いて
自分の思い出のように感じていた。